家族信託の手続き
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- 高齢者の財産管理について、「遺言」では死後の財産しか決めることができず、また「成年後見制度」では裁判所・後見人の管理下におかれるなど、柔軟な財産管理ができないといった不都合が生じます。その不都合を補完する手続きとして、近年「家族信託」が注目されています。家族間で信託を設定することによって、委託者(例えば親)が、受託者(例えば子)に依頼して、受益者(例えば、親本人)のために、本人の希望する信託目的に沿って財産を管理・処分・運営をすることができます。
- 家族信託には、家族間の民事信託の他、信託銀行や信託会社が開発した商品・商事信託がありますが、ここでは家族間の民事信託のうち、自益信託(委託者=受益者のケース)に限定して説明致します。
信託契約の特徴・注意
- 信託する財産を選択できます。全ての財産を信託しなければならないわけではありません。
- 不動産の信託については登記上明らかになります。
- 信託を締結後、委託者(親)に成年後見制度を利用する場合は、後見人の監督が信託財産にも及びます。
報酬規程
報酬 | 実費費用 | |
事務所報酬(契約書等作成、その他登記費用も含む) | 30万程度 | 実費相当額 |
☑ 但し、下記の認知症対策の事例(収益物件除く) |
- 司法書士は受託者の当事者にはなれません。
事例1
委託者:父
受託者:子
受益者:父
信託財産:不動産
- 父は、子に不動産を信託し、管理・処分を委託します。
- 父は、不動産の所有権の登記名義を子に移転し、同時に受益者となります。
- 子は、父の意向(信託の目的)に従って、不動産を管理処分します。
- 受益者は実質上の権利者であり、不動産から生じる利益を受け取ります。
〇 成年後見制度と違って、父が将来認知症になった場合においても、不動産の財産管理処分権は子に移るので、父が決めた「信託の目的」の範囲内という制限はあるものの、実質的には子の判断によって、その不動産の管理・処分をすること、例えば不動産を売却することができます。
- 受託者(子)は、信託の目的に従い、自身に裁量によって信託事務(信託財産の補修・売却・取り壊し・交換・共有物分割・担保設定・訴訟提起など)を行うことができます。
- また信託行為の定めにより、「売却等の処分行為を行うことができない」「担保設定を行う場合は、あらかじめ委託者の承諾を要する」など受託者(子)の権限に制限を加えることもできます。
信託財産は誰のもの?
- 信託の設定により、信託財産に属する財産の所有権は子に移転し、形式的には子が所有する財産となります。但し、信託財産に対する権利は、「信託の目的」に拘束されるため、その財産から生じる利益が子に帰属することはありません。
- 信託は受益者のための制度であり、信託財産に属する財産の実質的な権利受益者体は「受益者」となります。ただし、受益者は、信託財産に対する実質的な権利享受主体ではあっても、信託財産に対する直接的な権利を有しているわけではなく、受託者に対して受益者債権を有するにすぎず、その受益者債権を通じて信託財産に属する財産から利益享受することになります。
信託の設定方法
☑ 信託の定めることができる場合は次のとおり。
- 委託者と受託者の間における信託契約による場合
- 遺言によって信託を設定する場合
- 公正証書などにより自己信託をする場合
☑ 受益者である委託者は、自身が死亡した後の受益権の帰属先、さらにその者が死亡した後の受益権の帰属先、信託終了時の残余財産の帰属先を定めることができます。
信託における課税関係
受益者等課税信託
☑ 法人等課税信託については説明を割愛します。
受益者が信託財産に属する資産及び負債を有し、かつ、受益者に信託財産に帰せられる収益及び費用が帰属するものと考えます。
所得に対してかかる税金 | 所得税 |
資産の権利移転の際にかかる税金 | 贈与税、相続税、譲渡益課税 |
- 信託が設定されると、委託者から受益者に対して信託財産の移転があったものとみなされる。
- 自益信託の場合は、課税上、信託財産の移転はないと考えるため、贈与税、相続税、譲渡益課税などの課税関係は生じない。
- 不動産の名義変更のため登録免許税は4/1000(現行、土地は3/1000)
- 信託設定後、受託者が信託財産を売却した場合、委託者が不動産を処分したものと捕え、税務上の要件を満たす限り、譲渡所得税において、当該不動産が自宅である場合などは、居住用不動産における3,000万円の特例や買換えの特例などを受けることができます。
- 受益権の評価額=信託財産の評価額
不動産取得税
- 自益信託の場合は非課税
税務上の注意点
- 信託が終了した場合の課税関係について、自益信託の場合、委託者が、残余財産を取得する場合、信託財産は実質的には移転していないので課税関係は生じません。
- 受益者以外の者が残余財産を取得する場合、それが「死亡」に起因する場合には、帰属権利者に相続税に関する課税関係が生じることになります。また、「死亡」以外の理由に起因する場合にいおいて、対価を定めない場合は、贈与税に関する課税関係が生じ、対価を定める場合には、受益者であったものに譲渡所得に関する課税関係が生じます。
- 税法上、信託から生じた不動産取得の損失はなかったものとみなされます。したがって、収益不動産を信託すると当該損失と、信託以外の所得の利益との通算もできません。また、その損失は翌年以降に繰り越すこともできません。